将棋の強さに違いはあっても、将棋を愛する深さにはプロもアマチュアもハンデはないと思わせてくれる良書。
著者はプロの棋士ではないかもしれないが、プロの観戦士といえるだろう。
なぜならリアルタイム観戦記を書くにあたって、自ら“フリーク”と称する故・金子金五郎九段の5000ページにも及ぶ過去の観戦記を読み直し、「将棋世界」を始めとするさまざまな棋書を読みつつ、心に留まった記述をネットのあちら側に記録し、いつでもどこからでも(パリの対局場からでも)呼び出せるプライベートなデータベースを構築している。
そして何より棋士を敬愛する姿勢が心に迫ってくる。
羽生や佐藤を育てた伝説の研究会「島研」の主催者である島朗が名著「純粋なるもの」によって棋界の内側から示した羽生世代への洞察に勝る慧眼を示しつつも、さらに羽生キラーと呼ばれる深浦(対等に戦って“キラー”と呼ばれるところが羽生の強さでもあるが)と、唯一20代で羽生世代と互角以上の戦いを続けている渡辺への考察を加えて、この世界に生きる“求道者”とも呼べる超一流たちの生き様を余すところなく掘り起こしている。
それにしても、2008年すべてのタイトル戦に登場した羽生は唯一人一年を通してのタイトル戦のネット中継を見ることが出来なかった人物であるという事実は、面白いと思いつつも、改めて羽生の凄さを感じさせるエピソードである。