ある意味で、「ビジネス小説」である。
主人公の辰村は、藤原作品の主人公に共通する「美学」を持っている。
それは、過去に生きてしまって、過去にこだわり、それでも今を
シニカルに生きている、ややキザな男だ。
これが鼻につく人は、そもそも藤原伊織の小説は読めない。
ここに、気の強い女性、インテリヤクザなどがからむ。
これまでこのパターンを、藤原伊織は頑なに崩そうとしなかった。
書評などでさんざん叩かれても、どこ吹く風で自分の小説スタイルを変えなかった。
もしかしたらそれが藤原伊織本人の美学だったのかもしれない。
末期癌を宣告されても平然と死ぬのを待ったのも彼の美学だったのか。
もちろん葛藤はあっただろうが、それを表に出さない痩せ我慢だ。
この「シリウスの道」は、主人公辰村はむしろ脇役で、
戸塚英明という若者の「成長物語」だと感じた。
最初はお坊ちゃんだった若者が、ひとりの骨のあるビジネスマンに育っていく、
その過程がむしろメインストーリーだと言ってもいい。
異論はあるかもしれないが、そういう読み方をしてもいいと思う。
最後に――
もう藤原伊織の新しい作品が読めないことは残念でならない。
ワンパターンだ、団塊の郷愁だと揶揄されながら、
我が道を行く作品を書き続けて欲しかった。