女たちが集まって、花嫁の支度を手伝っている。
笑わない花嫁モナの傍らで、彼女を励まし続ける姉アマル。
まるで市場に連れて行かれる子牛のように不安げなモナ。
結婚式を録画するためやって来たカメラ。それを見るであろう花婿に向け、アマルが言う。
『私たちには永遠の別れ。宝物をあなたに託すわ。どうか大切にしてやって…』
第三次中東戦争によりシリアから分断され、イスラエル占領下に置かれたゴラン高原。
両国の思惑の中、ゴラン高原に残された住民たちは、『無国籍』という扱いになっている。
モナは、シリアでTV俳優をしている、親戚ではあるが一面識もない男に嫁ぐのだ。
シリア側に渡ればシリア国籍が確定し、イスラエルが所有を主張するこの地には、二度と戻れない。
モナやアマルの父親は親シリア派の闘士で、投獄された経験もある。
政治活動を理由に、娘が超える軍事境界線への接近を禁じられている。
そこへ、祖国を捨ててロシア人と結婚し子供をもうけた長男、
女好きで、各国を飛び回り少々怪しいビジネスをしている次男が帰ってくる。
三男はシリアで大学に通っており、境界線の鉄条網の向こうで姉モナを待っている。
…前半は花嫁側のひとりだけの結婚式を挙げるまでの一族のいざこざを、
後半は境界線を超える際の、両国の四角四面の決まりに翻弄される様を描いている。
砂色の風景の中で、どこまでも伸びる鉄条網と、その向こうの緩衝地帯…。
映像としても、物悲しくもどこか郷愁を誘い、美しく思える遠景。
ここは水源地帯としても価値があり、それ故の占領地でもあるという。
男たちは花嫁の父と長老たち、父と長男、父と警察署長…と、諍いばかり。
女たちは姉と妹、長女とその娘たち、姑と外国人の嫁…と、性を共通点に支え合っている。
長女アマルの冷え切った夫婦関係。夫の発言からも、この国での女性の地位の低さが伺える。
プライドや面子に凝り固まった男達をよそに、この姉が妹の幸せのために東奔西走する。
『扉をたたく人』で、アメリカに不法滞在する青年の母親だった女性がアマル役を演じる。
知的で美しい人だ。いつも寂しげに寄せられた眉間の下の目が、それでも不屈に輝いている。
観終わって少し調べた所、ゴラン高原といえば、日本の自衛隊もPKO活動をしており、
その派遣期間は現在まで続き、派遣活動の中で最長であるという。忘れていた自分を恥じた。