暗闇の中、異様にカラフルなヘリコプターが飛ぶ、美しく迫力あるオープニング。『メドフライ』という害虫駆除殺虫剤の空中散布だというのですが...。
何組かの家族を追って物語は始まります。それぞれが少しづつ重なり合い、絡み合って、徐々に全体像が浮き上がります。
どの家族もなにかちぐはぐで落ち着かない。そんな危うさが観ている側に不安感を与えます。目の前に映し出される、『歪み』や『ずれ』が自分にも突きつけられ、心がヒリヒリする。そんなキツさのある作品です。
しかも、「途中で逃げ出すことを許さない」強い求引力が作品にあるのです。
大人数での、複数の平行するストーリーを、飽きさせることなく見せる演出力と俳優陣の演技力。
どこか突き放したような冷徹さを持つ、容赦ない人間描写。容赦ない...でも決して「非難」ではない。人間とはこういう部分を持ったもの。逃げられないし、全て含めて人間なのだ!ということだと思います。
強く印象に残ったことを二つほど。
ジャズシンガー「アニー・ロス」の歌と、チェリスト「ロリ・シンガー」の演奏。この劇中の『母と娘』の音楽が、複数のストーリーを一本の糸へと紡ぎ、さらに一枚の布へと織りなすための強力な手助けをします。
そしてもう一つ。効果的な色使いです。一例をあげますと、妻が画家、夫が医師の夫妻の自宅でのシーンです。妻は『真紅』の電話機(今と違い大きい)を、夫は『紫』の電話機を持ち、同時にそれぞれの友人と話します。着衣、インテリアも同じ配色です。『赤と紫』の激しく美しいぶつかり合いが夫婦の状況を強調して表現していました。
エンディングに流れるアニー・ロスの歌。「人生の囚われ人〜」という歌詞が作品全体を象徴しているかのようでした。逃げられないのです。人生からも、『メドフライ』からも...。少々のことが起きても...。