短歌を軸に国友、伊賀、舞子の三人の交錯する人間関係(男女関係?)を、国友、伊賀の視点から交互に描いた物語です。ストーリーをそれぞれの側からすこしのつなぎ目を作って展開させているので、立場の違いから同じ物事が微妙にニュアンスを違えながら描かれる絶妙の「間」が癖になります。ただ、視点の関係上、短歌以外は全体が語りと科白で構成されており、しゃべっている部分であまりに完成された日本語の連続に対する違和感も多少覚えたりもしましたが、読みやすいので一気に読んでしまえばそんなことは考えもしないでしょう。ところで、巻末に作中に用いられている短歌の原作者一覧が載っているのですが、それに見ると、複数の人の作品が作中で、たとえば伊賀の作品として再構築されていることがわかります。これって在原業平の和歌として作中では出てくるものの、実はいくつかの勅撰集からの寄せ集めなんかも多く混じっている「伊勢物語」と同じ構図ですよね。つまり、本作は枡野浩一氏による現代版の歌物語として読むことができるわけで、そう考えると、意外とかの平安においても「伊勢」がこういうふうに作られたのではないと思い至ったり、「伊勢」のように我々も本作に後人注のようになにかあとから付け加えるのも可能なのではと、そんなことも考えました。