アヒルの首を甘辛に炒めた料理とビールを,もっぱら売り物にしている,屋台に毛が生えたような店。ノスタルジックでしかも異国情緒をさそうような街並みに店はあるのだが,暮らしている人にとっては,何でもあるけど情緒だけはない街,らしい。
たいそう美しく艶っぽいヒロインである店の女将が,アヒルを熱湯にいれて毛をむしり取ったり,中華包丁で豪快にアヒルの首を3分割したり,そのほか忙しく店をやっていく姿が,とても魅力的である。そして,疲れて店先でものうげに煙草をふかしたり,閉店後アパートにもどり長いすに倒れ込んでためいきついたりする場面も。
忙しいのが大嫌いな怠け者を自認するものにとっても,忙しく働かざるをえない人びとの,懸命に生きる姿は美しくみえる。とくに主人公が美人である場合はなおさらだ。
主人公は,計算高くちょっとしたやり手の計略家であり,他方で弱い目下に対しては面倒見も良い。客あしらいをふだんに職の一部としているから,男を捌くのにもなれているが,反面で少女のように初々しかったりもする。そしてもつべき誇りをもって,とおすべき筋をとおす。強いからではない。かざらないからである。それは見事なもので,だから端麗な容姿にふさわしくないような,ぶざまな姿をさらすときですら,なおさらその存在には威厳すら感じられるのだ。
たいそう人間くさい美人女将の,とりたてて語るべきこともないような日々の暮らしの偉大さが,鮮やかな手際で描かれている,少し悲しいけれどもけっしてみじめではない作品だった。見終わったあと少し経つと,ヒロインのおかげで心に気持ちの良い風が吹いているような気がする。