ツィメルマンにとって演奏技術的な困難というのはとっくに解決されている。その上に音楽をどう構築するかが彼の仕事だ。
しかもそれをピアノという楽器を完璧にコントロールすることで成し遂げる。タッチの繊細さは言うまでも無く、ペダルによる倍音の残響に至るまで、意識せずに出している音がない。
それらがまるでオーケストラを指揮するかのごとく緻密に組み上げられてゆく。
磨き上げられた大理石像のように完璧な彼の音楽は、しかし「無機質」「機械的」なイメージとは無縁だ。それはまるで魔法をかけたように優しく豊かに心を満たしてゆく。
ショパンのバラードは、人間の心の奥底まで描き切った底知れぬ深みに満ちており、ツィメルマンはこれを人生のタペストリーのように紡ぎ出す。一体どこまで連れて行かれるのかと思うほど奥行きが見えない。ショパンの魂に肉薄せんとするツィメルマンとショパンとがまるで一個の人格になったかのような、圧倒的な音楽。これが最高のショパンかどうかは問題でない。世に名盤数あれど、これは別格だ。