1980年代に日本に巻き起こったマーラー・ブームのさなか、「マーラーの次はショスタコーヴィチ」と、まことしやかに語られていた時期があったのだが、その後、現在に至るまで、ショスタコーヴィチの15曲の交響曲のうちで、定番曲として定着したのは、この第5番と第10番くらいだろう。
私も、ショスタコーヴィチの曲にまつわる政治臭と、現代曲特有のとっつきにくさから、ショスタコーヴィチの交響曲のほとんどは聴く気がしないのだが、第5番と第10番、特に、第5番は、古典派やロマン派の名交響曲と比較しても全く遜色のない名交響曲だと思う。
バーンスタインのショスタコーヴィチの交響曲は、昔から名盤として定評があり、この第5番も、いずれもニューヨーク・フィルを指揮した1959年録音のこの旧盤と、1979年の東京文化会館でのライヴ演奏を収録した新盤とも、評論家諸氏の極めて高い評価を得ている。
20年もの年月を経たこの二つの演奏の間には、とても同じ指揮者による演奏とは思えないほどの大きな違いがあるのだが、私は、断然、この旧盤の方を取りたい。スタジオ録音盤とライヴ盤を比較した場合、通常は、ライヴ盤の方が白熱した演奏になると相場が決まっているのだが、この二つの演奏に限っては、全く逆なのだ。新盤演奏当時は、まだ、バーンスタインの晩年という時期ではないのだが、新盤の演奏には、明らかに晩年の特徴が出ており、極めてテンポが遅く、表現に深みはあるのだが、暗く、内省的で、躍動感がないのだ。それに対し、旧盤は、新盤より3分30秒以上も速いテンポで、ストレートにこの曲の魅力を表現しており、新盤よりメリハリ豊かで、特に、第1楽章や第4楽章の熱気溢れる圧倒的迫力では、完全に新盤を上回っている。例のボルコフの証言は、この曲へのアプローチにはさほど影響しないともいわれており、私は、旧盤で、素直に、この曲の魅力に浸りたいと思う。