日仏先行リリース。殆ど抜き打ち的に登場した庄司紗矢香のミラーレ移籍第二弾は、待望のショスタコーヴィチ協奏曲集であった。共演はドミトリー・リス指揮ウラル・フィルハーモニー管弦楽団。2011年8月、ロシア・エカテリンブルクのフィルハーモニーにてセッション録音。全2曲7トラック、総収録時間69分12秒。
ここに収められた二つの楽曲は、オイストラフやコーガンなどの初期録音を除けば、ロシア/東欧系独奏者と西欧オケの組み合わせで聴くことが多かった。本作はそうした流れの、ある意味逆を突く企画であり、そこに「進境著しい庄司の新作」という話題性に止まらぬ意味と価値がある。
注目の第1番。冒頭のノクターンから、分厚い雲に覆われた平原で、独り霧雨を払うようなヴァイオリンの音色が印象的。前作
バッハ&レーガー:無伴奏ヴァイオリン作品集でも聴かれた内省的な表現は、この独奏者の真骨頂ともいえるもの。
続くスケルツォは一転してエッジの効いたフレーズの切り返し。音程は完璧、テンポ設定も自然で、かつ絶妙な肩の力の抜け具合は流石である。
そしてこの演奏の白眉と思えるのが、パッサカリアからカデンツァの流れ。約9分+5分の長大な楽章だが、ここでの庄司の演奏は、沈痛な旋律を原色的に響かせる欧米流儀とは一線を画すもの。渋めの色調を貫くフレージングに、無限の憂いを宿すところなど、この楽曲を長年弾き込んだ彼女ならではの至芸だろう。
ただし、ここまでは肯定的に受け止められた感情の抑制が、カデンツァから一気になだれ込むブルレスケでは、ややダイナミズムを殺ぐ結果を招いたように感じられるのが惜しい。
これは冒頭のティンパニの音程感の欠如や、高音部が抜け切らない弦楽器群(どちらも“録り”の問題)、そして指揮のリズムの重さも関係しており、このため独奏ヴァイオリンともども、終結部に向かって一気呵成にたたみ掛ける疾走感を欠く結果となった。
反面、そうしたオケの緩さと重さがポジティヴに作用しているのが第2番。ショスタコーヴィチらしい乾いたユーモアと、プロコフィエフ的なグロテスクさを併せ持つこの楽曲では、過去の録音をほとんどあらゆる点で凌駕すると言いたい快演が聴ける。
モデラートの軽妙なやりとり、調性感の薄い旋律が延々と続くアダージォ、そして打楽器との掛け合いに挟まれた終楽章のカデンツァは、まるでパントマイムを観るような視覚感に満ちており、この楽曲の魅力をこの演奏で再発見される方も多いはずだ。
本作を手元に置き、ここまで集中的に聴いた印象としては、第2番は文句無し。当初やや期待はずれと感じた第1番も、聴き返すにつれ熾き火のような魅力がじわりと浸透してきた。
惜しむらくはオケ録音の抜けの悪さだが、収録会場を写真で観る限り、これが実演の音に近いのかもしれない。箱庭的な緻密さとは別の価値を求めた録音であるなら、制作側の狙いは成功しており、それが第2番の高い完成度に結実していると言うべきだろう。