この作品の得意な点は、ユダヤ人虐殺の理解や分析を徹底的に拒否して、証言に耳を澄ましてただ感じようとする姿勢にある。そもそもホロコーストは、分析不能な現象である。これほどの殺戮を可能とするものは狂気以外にはなく、狂気は理解も分析もできないものであるからである。だから、多くのホロコーストの歴史書には、この現象を十分に分析することはもちろん、十分に記述することさえできなかった。理解も分析もせず、しかし忘れることもしないとすれば、可能なことは感じることだけである。映画「シンドラーのリスト」と違い、再現シーンをはさまないドキュメンタリーな手法は、ホロコーストを甘い悲劇にすることを絶対に排除する。われわれは、泣くことも感動することもかなわぬまま、虐殺の現実をた!!だ感じ続けることを強要される。極端に非人間的な歴史的事象に対するこのアプローチを編み出したことこそが、本書の本当の価値のあるところだろう。