シューマンの生涯はたいてい妻のクラーラとの愛情関係を中心に語られ、ロマンス色の濃過ぎる伝記となることが多いです。しかし、本書は等身大の音楽家シューマンを描き出し、音楽史における彼の功績を客観的に説明しています。室内楽(「ピアノ五重奏曲 変ホ長調 作品44」など)のジャンルから伝統的な様式に拠りながらも新しい芸術を作り出した、と筆者は彼の革新性を指摘しています。また、「教会音楽を書くことは作曲家の最高の仕事」(125頁)と宗教音楽の作曲に強い関心と意欲を持っていたというのは初耳であり、近代における神・宗教の存在と意義の観点からも興味深かったです。本書は新鮮なシューマン像を描くことができたと言えます。