2010年はシューマン生誕200年に当たる年で、シューマン作品の演奏やCD発売が盛んに行われることだろう。シューマンの代表的な作品というと、交響曲、ピアノ協奏曲、歌曲、ピアノ独奏曲が挙げられるが、室内楽も幾つか残している。1842年はシューマンの「室内楽の年」と言われ、三つの弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲、そしてピアノ四重奏曲が作曲された。室内楽は作曲家の技量が直接に最も現れる分野と言われ、ベートーヴェンの偉大な室内楽はその代表的傑作として現在に至るまで高い評価を得ている。そのベートーヴェンを尊敬していたシューマンは、どちらかというと小さな規模の作品で素晴らしい作品を幾つも残している。深いロマンを湛えたシューマンの資質は、技量と構成を重んじる室内楽ではむしろマイナスに働いてしまうように思えてしまう。けれども、ここに収められた五重奏曲と四重奏曲は、シューマンの特質が実にロマン溢れる独創的な作品として結晶している。
五重奏曲の方はポピュラーで、輝かしく生命感溢れる楽想が特徴で、聴いていて爽快な作品だが、響きが厚ぼったいと揶揄される曲でもある。室内楽というよりも、交響楽的作品というべきだろうか。他方、四重奏曲は、シューマンの内省的なロマンと室内的構成が高次に調和した作品として、この分野の傑作としてもっと評価されるべきである。バッハ研究に基づく対位法書法と、深いロマン、室内楽構成がシューマンの個性によって結晶している。特に、第三楽章の非常に美しい歌謡的旋律は、シューマンの愛妻に捧げし「魂の詩」ではなかろうか。ベートーヴェンのピアノトリオ「大公」の第三楽章にも匹敵し得る美しい楽章である。この二つには共通点があるように思う。「大公」はいうまでもなく、ベートーヴェンのパトロンであったルドルフ大公に捧げられた曲であり、シューマンのこの四重奏曲はおそらく、愛妻クララに捧げられたものだろう。愛する者に捧げる曲には、その親密性と第三者をも感動させる力があるのではないかと思った。
デームスとバリリ四重奏団の演奏は、その親密性も然ることながら、曲に対する共感、いや、もはや同化した境地に達している。録音はモノラルであるが、十分にその素晴らしさが伝わってくる。バリリ四重奏団はシューマンをほとんど録音しなかったようだが、こうしてこれらの曲が残されたことに深く感謝したい。