注目はシューマンである。1973年4月ミュンヘン・ヘルクレスザールにて録音。
ピアノ・ソナタ第1番嬰へ短調作品11は1833-35年に完成している。誰しも感じることだがロベルト・シューマン(1810-1856)の素晴らしい曲は20才から30才の10年間に集中している。そしてこの中からポリーニが最初のシューマン・レコーディングにこの曲を選んだところが面白い。ポリーニのダイナミズム溢れる演奏スタイルはまず、ショパン弾きのイメージを払拭するようにストラビンスキーのペトルーシュカで始まりを告げ、ショパンでは圧倒的なエチュードを最初に選択した。まさに自らのポリシーを見事なまでに吐露した選択だ。
そしてここでのシューマンのピアノ・ソナタ第1番嬰へ短調作品11は目ならぬ耳からウロコのような演奏を聴かせる。ぼくに言わせればこの演奏はクララへの愛で一杯なシューマンである。『胸いっぱいの愛を』表現した初めての演奏だ。
この後ポリーニはシューマンを封印する。次のシューマンは1981年同じヘルクレスザールでの『交響的練習曲』と『アラベスク』である。そしてその後はどんどんとシューマンをレコーディングしている。このあたりがまた面白い。