例えばイノヴェーション、例えばアントレプレナー、例えば創造的破壊。
書店の店頭を見渡せば、必ずや目にするであろうこれらの単語群が、経済学者ヨーゼフ・
シュンペーターの理論を象徴するものであることは周知の通り、しかし、いかにも華やかな
その字面に目を奪われてばかりでは、彼の「思想が矮小化されてしまいかねない」。
「本書は、ケインズと並んで20世紀経済学の天才と謳われたシュンペーターの生涯と思想を、
幅広い読者を対象に、できるだけわかりやすく解説した啓蒙書である」。
本書に骨格を与えるキーワードは「シュンペーターのパラドックス」。
そもそも彼の知的源泉はワルラスの一般均衡理論、そうした「静学」をベースとしつつも、
アントレプレナーに代表されるように、彼の思想はあくまで「動学」たらんことを志向する。
そういった彼の持つアンビバレントな相に光を当てることを通じて、決して一筋縄ではいかぬ
この「社会科学者」の深層を読み解いていく。
彼の人物をめぐる印象批評についてはコメントを避けるが、理論をめぐる根井氏の解説は
入門書と言いつつもその射程を超える奥行きを見せ、実に明瞭なもの。
昨今は、間宮氏による『
一般理論』の新訳出版に象徴されるように、ケインズ経済学が実に
熱い。そんなケインズの批判的読解を通じて(批判ということばは必ずしも否定を意味する
ものではない)より深くその思想を理解するためにも、シュンペーターのテクストは非常に
有効なものと思われる。