これは著者初の長編小説で、91年に単行本が上梓された作品。著者が題材に選んだのは、大学4年という、青春の一区切りとなる、もう戻ってこない時間。女子大生の失恋物語と言ってしまえばそうだが、感傷をこめつつも、描かれる個人は主体的で、過度に対人関係に依存しない。
弟、病気、病院、神道系教会等の著者ならではのモチーフが登場する一方、生活感があって、イメージが豊か。次々出てくる食物・料理、サンシャイン・マーケットの照明、青白く輝く月、野球場に舞う紙吹雪、日記を細かく裁断した紙片、光に満ちたガラス美術館、オーロラ、そして春から盛夏を経て木枯らしが吹くまでの季節の移ろい。
その一方、流れてゆく時間は透明で静謐。過ぎ去った青春の時間がたまらなくいとおしく思える作品だ。