『緋色の研究』、『四人の署名』、『シャーロック・ホームズの冒険』、『回想のシャーロック・ホームズ』、『バスカヴィル家の犬』、
『シャーロック・ホームズの生還』、『恐怖の谷』に続いて刊行されたシリーズ第八作。第四短編集にあたります。
やはり「最後のあいさつ」の終局においてホームズが呟くセリフが印象的だ。時の流れのそこはかとなさと激動さを感じさせる。
そのほか、耳を切り取り小包で送りつけるという猟奇性が当時としては相当インパクトが強かったであろう「ボール箱」や
ホームズの兄マイクロフトが依頼者として登場する国家的大事件「ブルース・パーティントン設計書」は秀逸な死体移動アイデアなんかも
面白い。「瀕死の探偵」でホームズがみせる比類ないバイタリティや、理路整然とした推理は氷のように青く冷えているが、心の内奥では
バラ色の輝きを有して人情味においては杓子定規にはならないことを示している「悪魔の足」事件等、ホームズが持つ人間的魅力の虜に
なれます。
やはり考えてみれば、ホームズは愛されて然るべき存在だ。気取った言動や、倣岸な態度で隠されているがその人格は気高い。
儚いほどの皮肉さと真に迫った重厚さ。名誉はいらない。仕事のための仕事。芸術のための芸術。
架空の人物と言えど、その信念や美意識の影響力は何か計り知れない。架空で止まらない質感や量感を読者は感じれるのではないか。
一方、ワトスンとの友情や、そのコンビで醸し出す冒険的スリルは単に楽しいのだ。だから男女年齢問わず誰にでもお薦めできる
稀有な読み物なのだ。