シャーロック・ホームズと最初に出会ったのは、小学校低学年の頃だと思いますので、30年も昔のことになります。その間、読んでいない時期もありましたが、「シャーロック・ホームズ。」と聞けば、少し頭の中が白くなり、胸が高鳴る気がします。シャーロック・ホームズは私にとってそういう存在です。
他の方も書いていますが、このシリーズの面白さは、主人公のホームズの強烈なキャラクターにあります。そのため、事件の筋書きを知っていたとしても、何度読んでも楽しむことができます。子供の頃は、難解な事件を、驚異的な推理力で解決するという単純なヒーローでした。これが、大人になって読むと、違った見方になってきます。シャーロック・ホームズは、麻薬常用者であり、社交性ゼロの女嫌い、家の中で趣味の化学実験に没頭し、バイオリンを適当にかき鳴らす。部屋の中で銃を撃って、女王陛下のイニシャルを打ち抜くというのは少し作者のやり過ぎだと思いますが。ヒーローというよりも、どちらかと言えば、パンクで奇妙な人物です。
通常のぼんやりした物憂げな態度が、事件で必要な一瞬には精力的になり、そうしてまた物憂げな日常に戻っていく。そうしたパンクで奇妙な人物が活躍する物語の魔力に、大人の読者は魅了されてしまうのだと思います。作者のコナンドイルが、どこまでホームズをパンクな人物として意識して描いたのかは分かりませんが、作り手の意識を超える魅力を作品が持つということは、私のもう1つの趣味であるロック、Jazzの世界でも起こることだと思います。
子供の頃には最高のヒーローとして、大人の読者には社交性ゼロのパンクで奇妙な人物として、世代を超えて異なる魅力を持つまさに最高のキャラクターです。
ホームズの短編集の中でも、この「シャーロック・ホームズの冒険」は最高の短編集です(これに続くのは「シャーロック・ホームズの生還」でしょうか。)。作品としては、人気の高い「ボヘミアの醜聞」や「まだらの紐」、子供の頃から大好きな「赤髪連盟」などがありますが、今の私には、パンクなホームズの隠れた人間性が表われる「ボスコム渓谷の惨劇」がベストの1作です。