今ではすっかり収まってしまった感があるが、70年代、ミスター・ハリウッドと呼ばれ、何かと話題に事欠かなかった大スターと言えば、ニューマンでもマックイーンでもレッドフォードでもなく、ウォーレン・ベイティであった。
シャーリー・マクレーンの実弟として若い頃からハリウッド・スターとして活躍、また自らもアーサー・ペンと組んで「俺たちに明日はない」に製作主演、アメリカン・ニューシネマのムーブメントを巻き起こす一方、進歩的リベラル派として、反ニクソンの急先鋒で民主党左派のマクガヴァンを熱烈に支援し、「明日に向かって撃て」、「ゴッドファーザー」、「スティング」の主役オファーを次々と断り、政治活動に力を入れた事は有名だが、そんな彼が、当時限られた時間内で選んでいた映画たちは、同志的仲間が手掛けるものばかり。そして、「シャンプー」も、そんな1本と言える。
ハリウッドのセレブ御用達の高級美容院で美容師として働くベイティは、ゴールディ・ホーンと付き合いながら、常連客のリー・グランドとも男女の関係を持っている。自分の店を持ちたいベイティに、グランドは、夫で地元有力者のジャック・ウォーデンを資金提供者として紹介する。初対面のオフィスでウォーデンと会ったベイティは、そこに出入りするウォーデンの愛人の顔を見て驚く。何故なら、彼女ジュリー・クリスティは、ベイティと以前付き合っていた女性だったからだ、、、。
一見、下半身が軽薄そのものな美容師のライトな艶笑コメディみたいな感覚なのだが、今作の舞台に設定されているのが68年9月、そう、共和党候補ニクソンが民主党候補ハンフリーを大差で破り、合衆国大統領となった頃である事を考えると、笑ってばかりもいられなくなる。ベトナム戦争が泥沼化し、反戦運動に公民権運動、更には世界的に様々な社会変革の運動が湧きあがっていた68年に、セックスとパーティーに明け暮れるビバリー・ヒルズの上流階級の人々への、これは痛烈な風刺劇とも取れるからだ。
実際、大統領選挙開票当日の共和党上院議員パーティでの、ニクソン圧倒的優勢の選挙速報を挟みながら、三角関係ならぬ五角関係入り乱れての女性陣のさや当てとむき出しのジェラシーからくる当事者たちの狼狽と醜態ぶりを見ていると、つい裏目読みをしたくなる。
当時のベイティの恋人ジュリー・クリスティに、友人で後に製作者に転身するトニー・ビル、政治的同志のリー・グランド。ハル・アシュビーにラズロ・コヴァックスらニュー・シネマを代表する人々で作られた74年度作品。
その年のアカデミー賞、ベトナム反戦を真っ向から捉えた「ハ―ツ・オブ・マインズ」が長編ドキュメンタリー賞を受賞した後、プレゼンターで登場したベイティは、自らの役柄になぞって、共和党の皆さん、今なら、いつでもシャンプーしてあげますよ、とジョークを飛ばし、拍手を誘ったとの逸話が思い出される。