超絶的な文章力による自伝的小説のペーパーバック版に出会って衝撃を受けたのが2007年のことで、以来私の人生の手引き書として、私がお勧めする文学のトップ5に入っています。
2011年11月、日本語訳はいつ出るのやらと思いながら書店を何気なく歩いていたら、何気に文庫版が平積みされているではありませんか。
早速求めて読んでみると、田口俊樹さんによる翻訳は原文の格調高さをまったく損なうことなく、むしろ引き立たせ味わいをいや増す名訳で、嬉しくなりました。
ペーパーバック版は933ページもある大著なので、文庫版は上中下巻の3分冊となっています。
でも、傑作映画を観ているような感じでページをめくる手が止まらず、読み進めるのが勿体ないくらいです。
各章は主人公リンの哲学的ともいえる洞察が肉声で語られていて、何度も読み返してノートに書き写して覚えたくなるようなフレーズが、本書全体にちりばめられています。
私はこの本の影響を受けて、たまらずムンバイに行きました。レオポルドカフェで楽しみ、スラムにも飛び込み、たくさんの友人ができました。ブラックマーケットやムスリムコミュニティーにも出入りしました。スラムの友人の出身地に連れて行かれ、デカン高原にある電気も来ていない村に滞在しました。その村でお世話になった家の姓が偶然にも Shantaram でした。ボリウッドの映画関係者ともつながりができ、以降毎年ムンバイに行くようになりました。
小説仕立てではありますが、エピソードの数々は著者の実体験に基づいて細部に至るまで鮮やかな描写がされていて、圧倒的な迫力があります。
私も馴染みのスラムでの滞在を重ねるにつれ、本書のエピソードのうち投獄されることとアフガン兵士になること以外のほとんどを体験し、実際に体験していないこともすべて真実に基づいていることを、見聞きして知ることができました。
本書の舞台は約30年前のボンベイですが、ムンバイとなった今でも、本書が描いた素晴しいインドとインド人は何も変わっていないと思います。
外国人にとってのインドは、大好きになるか大嫌いになるかのどちらかに分れる、とよく聞きますが、大好きになる人はインドから呼ばれた人で、大嫌いになる人は呼ばれなかった人である、という名言もあります。
本書を読んで感動にうち震えたら、自分がインドから呼ばれた人だと思って間違いないでしょう。
出版社さんへ。これほどの傑作は、ハードカバー版を是非出して下さい。こんなに人に読んで欲しい、プレゼントしたいと思えた本は、過去にありません。
【2011年12月25日追記】