この本を読む前にシャクルトンのエンデュアランス号漂流記を読んだ。それは表舞台の話だった。この本はその表の人たちを支えるための「ロス海支隊」と言うシャクルトン本隊の予定経路に食料基地を設営し物資を供給するためルートの逆側から南極点に向かって行った一行の物語である。
本隊が華々しい取り上げ方をされる一方でこの支隊の存在はほとんど話題にならなかった。実際には本隊は南極を横断するどころか南極大陸に上陸することもかなわず漂流し一応全員生還したものの本来の目的を果たすことはなかった。シャクルトンも支隊を気にかけるものの本隊の方で手一杯で、資金・船・隊員・装備等、全ては指揮官のマッキントッシュ任せであった。全てが準備不足、隊のまとまりもなく、犬の訓練も不十分、内紛や不信感渦巻く経験不足の最低の組織を、最低の準備で率いなければならないマッキントッシュ自身には、一番必要な指揮官の能力が欠如していた。それにも関わらずこの支隊は「自分たちの行う食料基地設営が本隊のシャクルトンの生死を分ける」という使命感のために、筆舌しがたい苦難の末、目的を達成する。結果3人の隊員の命が失われる。その中にマッキントッシュ自身も含まれている。残った一行が救出されたのも、最後の最後である。ただしその救助にシャクルトン自身が率先して参加しているのが、彼の責任感の強さが表れているところである。
筆者のケリー・テイラー・ルイスは丹念な取材を行い、イギリス・オーストラリア・ニュージーランド、そして南極にまで行って取材を行い、このとてつもない事実をまとめ上げた。南極から戻った本隊・支隊隊員たちのその後も描き、人間の欲望や思惑などについて考えさせられるような内容となっている。
先の本隊の物語と合わせて読むと、組織をまとめるには、とか、リーダーシップとは、リーダーに求められる資質や行動、判断とは、、といったことが成功例と失敗例で示されるようで興味深い。しかし、結果だけ見ると、実は当初の目的を達成したのは組織のまとまりとしては最低だった支隊の方であったことは皮肉なことだ。こうして両方の話を読むと、果たしてシャクルトンは危機に陥ったときのリーダーとしては卓越していたかも知れないが、本当のリーダーはそのような危機に陥らないような先見の明を持った人でなければいけないのでは?と計画段階の杜撰さ・見通しの甘さが浮き彫りになったような気がする。