このDVDはまたしてもコンチネンタルバージョンでオリジナル版をぜひ見たい人にとっては残念だが、それだけでこの作品を評価してはいけない。
スタンリー・キューブリックの「シャイニング」は、人間が正気を失っていく過程が全く描かれていなかったことから原作者のスティーブン・キングからエンジンのない豪華な車と批判された。でも、この批判は的を射ていない。
サブミリナル的に組み込まれた双子の少女の映像とエレベーターから流れ出る血の波、幾何学模様の床や絨毯、迷路の模型と本物の迷路、救出に来るハロラン(スキャットマン・クローサー)のタイミングなど全てが計算されつくした恐怖が観る者に襲いかかる。
これだけなら単なるホラーなのだが、さすがキューブリック、それだけでは終わらない。様々な箇所で彼の主張が見え隠れする。何故、展望ホテルがインディアンの墓の上に建てられたのか?元管理人のグランディが何故自らの妻子を殺したことを「しつけ」と表現したのか?ハロランが救出に来ることを「黒人(二グロ)が我々のパーティをつぶしに来る」という差別的な表現を用いているのか?全てはホテルに巣食う亡霊が古きアメリカのWASP(白人・アングロサクソン・プロテスタント)の男性至上主義の化身と考えると筋が通る。この作品はWASP男性至上主義と女性、子供、黒人の対決の構図で描かれているのだ(だから敢えて正気を失う過程を捨象したとも考えられる)。
彼らに撃退されたジャック(ジャック・ニコルソン)が最終的な居場所が、1921年7月4日のパーティで、これが白人の独立記念日であることを考えるとこの作品の本質は完全にWASP男性至上主義の崩壊となのだろう。そんな奥の深いホラーで、観るたびに発見のある傑作だ。
ところで、このDVDでジャックがドアをぶち割り、隙間から顔を覗かせて有名な「Here’s Johnny」と言うところを「ジョニーだよ〜」ではなく「お客が来たよ〜」と訳しているのはあまりにセンスがない。