この本の執筆時に89歳だった,今も達者である老医師が自由に書いた随筆と言った感じの本。冒頭で「人間はいつまでセックスをするのか」という問いに,きっぱりと「死ぬまで」と答えている。この事からも分かるように,極めて楽観的な立場である。人間は生殖年齢が終わっても(子供を作れなくなっても),生殖とは無関係に死ぬまでセックスできるのだから,細かいことを言わずに楽しめば良いじゃないか,と,一言で言えばそんな内容だ。
私が本書で特に価値があると思うのは,いろいろな事象を裏付ける調査データである。特に熊本悦明氏による調査は素晴らしく,「○○硬度の年齢別推移」の調査の対象者は全体で8千人あまりにのぼるという大規模さだ。このような事柄の客観的な調査結果はなかなか得がたい。兎角思いこみや十分な母集団の規模がない調査に頼ったりしがちだが,これならば十分に信頼の置けるデータだといえるだろう。
ある別の調査によれば,70代前半の男性ではまだ過半数が性交している。これは多いと言えば多いのかも知れないが,一方で先ほど述べた熊本氏の調査から,男女ともに加齢とともに身体的な理由で出来なくなる人も増加している事もわかる。
平均年齢が50歳程度だった戦前ならば老後の性など心配する必要もなかっただろう。しかし高齢化が進む今では老人の性を巡り様々な問題が起こっているようだ。配偶者と死に別れた後の問題や老後の男女の性欲ギャップなど…。私などは年と共に木が枯れるように性欲も能力も減退してゆくのも,煩悩が次第に減ってゆくようで悪くないと思いがちだが,筆者は老いてもなおセックスできる幸福を素直に喜んでいる。まあ,自分一人だけの事を考えれば良い事であることに間違いはない。私も老後の楽しみが一つ増えた,と考えることにしようか。