この本自体の書評としては文字通り、「内田良平の『支那観』を読む」事に尽き、この本でもそれについ
て現代の中国との対照を踏まえながら、多少の字句の難解さもありながら割とすらすらと読める物だと
思います。
そして一応本書にも支那観原文、現代訳し多少補足を踏まえた物両方あったが自分の教養の無さで原文
及びその背景を十二分に把握出来ていない事を恥じながら読ませて貰った率直な感想は、他のレビュアー
が述べる同様「同文同種」、「一衣帯水」なる中国像は現在過去に無く、未来も恐らく無いだろう事、
また内田氏の「活動家」としての高い能力、文字通り支那大陸を縦横無尽に駆け巡り、日支双方の政府
民間レベルで働きかけその展望を遺憾無く発揮していた事が書かれています。
また文中に何度も出てくる「読書社会」、「遊牧社会」、「普通社会」という分け方、支那社会の欧米
日それぞれとの多様な比較を踏まえた物、これは現在の中国を見る上でも有効な観察の一拠でしょう。
そういう意味では著者達が示す通り現在に通じる「支那観」でした。
また同時代の歴史を読む上でも北南支那の関係、日本の大陸政策、日本人の昔からの眼の無さ、内田氏
本人の奔放な活動とその志がここにあります。
ただ残念ながら本書でも仰ってますが、内田氏は活動家、啓蒙家であってその思想を明確に記す物は
無いようであくまでその行動や「意見書」という形での断片的な物から読み取るしか無いようです。
自分としては辛亥革命、満州事変を通して本懐とまで言えなくとも自分の理想を達成した内田氏が
その後支那大陸特に南側へ引き摺られるように拘泥せざるを得なくなった状況をどう見、それを良しと
したのか否か、またそこからの見通しはあったのか、何を胸に思い半ばで亡くなったかを知りたくなった
のでこの評価にさせて頂きました。
重ね重ねになりますがこの本は各々の支那観を養う上で決して損にならない名著になると思いますので
特に初学者にはお奨めです。また特に日清、日露戦争、辛亥革命以降の支那を見る上では内田良平ほど
の、あくまで日本のと付け加えますが、重要人物は居ないと思いますのでその理解の一端となるでしょう。