佐野さんの子ども時代から母親の「シズコさん」をみとるまでの約六十年が、赤裸々に綴られている。どのページにも胸にずしんとくる言葉と涙まじりの笑いが盛り込まれていて、何度ため息をもらしたことか。
この本でわかったことは三つ。一つは、佐野家の歴史や事件がわかって、それまで今一つよく謎だったエッセイの意味が、ほぼ解明されたこと。二つめは母に対してラブ&ヘイトの感情を抱きつつ、葛藤している娘はこの世にごまんといる、という真実。そして、三つめは、日本絵本の最高傑作の一つ『100万回生きたねこ』で、佐野さんが「だいきらい」という、およそ絵本には似つかわしくない言葉を連発できるパワーの源がわかったような気がしたこと……。
母娘の葛藤は、施設に入った母の老いが進めは進むほど、自分の未来を見せられているように、ますますリアルに迫ってくる。また、幼年期に兄と弟を失ったというエピソードにも、胸が痛んだ。戦後まもなくの混乱期とはいえ、年のあまり違わない兄と弟を立て続けに失うというのは、幼い佐野さんにとってどんなに大きなダメージだったろう。また、佐野さんの、おおらかで温かい人生観の裏には、障害を持つ親戚の存在があったのかもしれない、とも気づかされた。
「母を好きになれないという自責の念から解放されたことはなかった」こんなに重いことを文字にしてしまう佐野さん。「家族とは、非情な集団である」「少しずつ狂人の人が、ふつうなのだ」……。誰もがどこかで感じているのに、誰も教えてくれなかったことを語って、多くの人を救ってくれたのだから、佐野さんにはまだまだ行かないでもらいたいと、祈らずにいられない。
内田春菊さんの解説も読み応えがあった。すべての女性に、そしてすべての男性に。