システム思考とは,様々な要素の複雑なつながりを「システム」として捉え,観察対象の全体構造を俯瞰する物の見方です。訳題は「システム思考」となっていますが,原題は"
Business Dynamics",本書は、システム思考の一つであるシステム・ダイナミクス(System Dynamics,以下,SD)の最古典テキストの訳本です(システム思考は一般に,在庫配分などのオペレーションズ・リサーチ[1]や、P.ChecklandのSoft System Methodology[2]を含みます)。
SDは,因果関係を矢印で表現することで,時間的遅れやフィードバックなどのダイナミックな構造的特性を記述する方法です。地球温暖化や自動車産業でのマーケティング戦略などが本書のように図解されると,「へぇ、なるほど」と納得しますが,実用するのは相当困難です。
1.対象の問題状況を,SDでモデル構築するのが難しい。
2.定量的な分析をするために,コンピュータ・シミュレーションが不可欠。
1については著者自身が巻末で,「初心者ではなく、熟練したモデル設計者を起用する」ことを,活用原則として挙げています。因果関係を科学的に推論したり,それに必要なストック/フローの峻別(例えば,会計における貸借対照表の項目/損益決算書の項目の関係)はなかなか難しいのです。2については,企業・行政の意思決定に活用しようとすると,定量的な予測データを出すために,コンピュータ・シミュレーションが不可欠になってきます。また,「理系と文系の両方の読者を念頭に置いた」と訳者は書かれていますが,微分積分・確率統計論などの工学的センスが,SDの理解には必要です。SDが初めての方は,
『システム・シンキング入門 』(日経文庫)をお薦めします(本書の訳者による入門書
『入門! システム思考』(講談社現代新書)もありますが、学術的誤謬が多いのでお薦めしません)。
*1 代表書に、『
オペレーションズ・リサーチ読本』
*2 代表書に、『
ソフト・システムズ方法論』
※*2に関しては、評者は訳者の弟子であり第三者ではないので、インサイダーレコメンドになることをお断りしておく。