徳川忠長の狂気の発露こそが、本巻のテーマであろう。
シグルイは、忠長の狂気に基づき実現された駿河城御前試合においての真剣勝負が真の舞台である。
本来、真剣による勝負は、当時、御法度のはず。
サディスティックに自分の配下の者を服従させ、場合によっては処刑してしまうことに快感を覚える。
忠長の前では、これまでの物語で活躍してきた登場人物も、皆、一様に屈伏するのだ。
牛をも持ち上げる怪力の乙女も、忠長に鞭で打ちすえられ尻から犯されても、ひたすらに耐えるのみ。
伊良子ですら危うく斬られるところを得意の雄弁で逃れたものの、恐怖で一瞬に髪が灰色に。
全ての巻において、主人公(藤木、伊良子)による息詰まる決闘シーンの連続を望む読者が多いのだろう。
本巻においては、藤木は前髪を落としてもいない若者に愚弄され、その指を叩き落としたにすぎないし、伊良子に至っては石牢に閉じ込められた人食い猿を斬ったのみ。
それでは、本巻は他のレビュアーの指摘するよう、物語の単なる引き伸ばし程度の巻なのだろうか?
否。
藤木と伊良子のお互いに対する執念はこれまで、十分に描いてきたかもしれないが、舞台回しの忠長の狂気は十分ではなかった。
前半では、伊良子を苦しめた虎眼こそが理不尽な舞台回しの主役であった。
おそらく、後半におけるその役割は、忠長なのであろう。
そのメッセージを、本巻で著者から受け取ったような気がします。