その好例といえるのが、内戦の続くリベリアで人を殺め、アメリカに流れてきた青年を主人公にした「世話係」だろう。母親を亡くし、職場をも追われた青年は、浮浪者となり、やがて自分だけの菜園をひっそりと作り始める。故国と自分との悲惨な現状を、植物の成長とともに少しずつ乗り越えていく姿からは、全編に通じる自然への畏怖と、人生に対する限りない肯定感を見て取ることができる。一見、脈絡なく登場する「クジラの心臓」や「メロンの濡れた果肉」といったイメージたちが、互いに共鳴し、ラストシーンでつながりあうとき、読み手は、著者の力量に改めて感服するに違いない。
アンソニー・ドーアは1973年生まれ。本書は彼の第1短編集である。本国アメリカで高い評価を得たその作品の数々は、詩的で美しい文章、卓抜した表現力、スケールの大きさ、読み手の想像を遥かに凌駕する巧みなストーリー・テリングなど、どれをとっても20代の新人作家の手によるものとは思えないほどの才気を感じさせる。デビュー作にして、豊潤な味わいをたたえた1冊である。(中島正敏)
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