・・・酒に酔い劇団員を「へたくそ!」と罵倒した直後、「こうやって仲良くなるんだ」と微笑む唐と頭を抱える真摯な劇団員・稲荷、その稲荷を庇う心優しい先輩劇団員・鳥山・・・・
見ていて感じる不快さは動物の調教師のような唐の表情にあるが、 何処までが芝居か現実か、と最後の唐の台詞?「それにしても自分を演じるのは難儀だ」といくら韜晦趣味を気取ってもドキュメンタリーは見事にその構造をひっぺがし光を当てた。これは大島新監督の見事な手腕だ。ここには大芸術家であろうとも天才であろうとも、ただ幸せな老後を送る一人の演劇人の姿がある。 親子以上に年の離れた若い才能ある劇団員を古希迎えた劇作家・演出家が自在に操れる事の至福! 唐の天才を些かも否定するものではないが、映画はそこに横たわる一種の欺瞞を見事に可視化する。
苦しいバイト生活との両立、若い劇団員に経済的な保障は一切なく、唐は自分の奇矯なカリスマ性のみで周囲を引っ張って行く。練習をも兼ねた厳しい合宿の筈なのに自分だけ公私混同して家族を合宿先(山中湖)に連れて来る一方で、経済状況の苦しい劇団員は家族すら持つことができない。 年収が15万に増えたと喜ぶ劇団員、唐十郎のムチャなキレ方や横暴に耐え、見事な舞台が生まれる奇跡。ドキュメンタリーの本道は対象を神格化することではないし、この映画は唐の天才を活写することに主眼を置いてはいない。この映画の主人公は唐十郎ではなく、 唐を愛し行動を共にしその横暴さ奇矯さに耐え奇跡的な舞台を顕在化させる殉教者のような劇団員達だ。
このドキュメンタリーは一級品だ。若干つっこみ足りない部分も散見はするが、素材の選択、見事な着眼点をも含め、大島新の今後に大いに期待する。