この録音は、その名の通りホロヴィッツの最後の録音となったわけだが、その演奏の内容は「感激」の一言に尽きる。まずハイドンでは、端正なつくりでとても美しい。続くショパンのマズルカの中間部などで、こんな風に弾けるピアニストはまずいないと思う。幻想即興曲も技巧とはかけ離れた演奏だが、ホロヴィッツならではの美的感覚があるように思う。エチュードも美しさを追求したもの。技巧だけがホロヴィッツの持ち味でないという事をここでは完璧に証明している。ノクターンで特に良いと思ったのはop.62-1。聴いていたらじーんと心にくる。最後のコーダのあたりになってくるとその美しさに耐えられないほどである。そして、さいごのイゾルデの愛の死は、ホロヴィッツの大きな力が感じられるこれもまた名演である。唯一この録音で惜しまれるのは、ホロヴィッツの死があまりにも突然でったため、このCDに収録するはずだったショパンエチュードの数曲が未録音のまま終わってしまった事だ。ともあれ、ここまで音楽の美しさというものが伝わる録音というのは、これまでになかったものであり、これからもなかなか出てくる様なものではないように思われる。