トヨタが一人勝ちに近い賞賛を受けていた6年ほど前に出版され、大変話題になった本である。その後社長が2代交代し、北米でのリコール問題を経た現在のトヨタの変化は当然ながらこの本からでは分からないが、改めてトヨタが凄い会社であることを知ることができる。
あまたのトヨタ本がある中で、この本の意義は、同社のグローバリゼーションの考え方、方法論が、特に北米での現地化の様々な事例や証言を元に、アメリカの経営学者の眼を通して描かれていることにあると思う。価値観が日本と大きく異なる北米において、企業としてのフィロソフィーを変えることなく、見事現地化に成功した日本企業のグローバリゼーションの優れたケースを読むことができる。その成功要因は、下記の4点が大きかったように本書から読み取れた。
・比較的早い段階から北米での現地化を検討し始めたこと
・最初は、あえてGMとの合弁会社(NUMMI)という慎重な手段をとったこと
・日本のリーダーを派遣し、トヨタの文化、フィロソフィーを植えつけ、時間をかけて現地のリーダーを育て上げたこと。
・最も根本は、変に現地の価値観におもねらず、自社の思想、哲学への強い信念をもっていたこと。
こうした、自社の哲学を核として強くもってグローバリゼーションを図ることの大切さは、近年のサムスンの成功などにも共通して言えることではないだろうか。
本書を通してもう一つ感じたことは、トヨタ(および一部日本企業)はアメリカの経営手法がいろいろ喧伝されるより以前に、それを経験的に体現していることである。例えば、
・学習する組織の体現
・アメ・ムチではなくモチベーションへのフォーカス
・管理者ではなくリーダーであること
・主査制度≒マトリックス組織、プロジェクト組織
・根回しによる合意形成≒チェンジ・マネジメント(ステークホルダー分析とコミュニケーション計画の立案と実施)
などなど。
蛇足だが、ご本人自身も序文の中で言われているが、筆者はトヨタおよび日本びいきにも見える。日米の価値観の違いの例証として、一枚の魚の絵のどこにアメリカ人と日本人がそれぞれ注目するか(魚なのか、背景含めた全体なのか)という実験がある。最近読んだ「選択の科学」でも取り上げられ、この本でもその実験結果が取り上げられている。「選択の科学」の著者は、そのテーマとの関係もあって、どちらかと言えばアメリカ人の優位性を強調する材料として、この本では日本人の優秀さを強調する材料として取り上げている。当たり前ではあるが、同じ実験結果でもその人の視点、テーマによって180度その評価が異なっていることが面白かった。