読んでる途中で残念ながら本を読んでいられなくなると、はやく先を読みたくて、じりじりし、読み終わってからは、「ああ、素敵だった」と溜め息がでました。
同じようなあらすじでも、もっと悲惨な書き方・展開になることもありうると思います(というか、そういう作品のほうがありがちかも)。
介護施設に入居中の90代の老人が、70年も昔のこと……偶然飛び込んだサーカス生活!……を回顧する話ですから。
怖いところやイヤなところがほとんどないのは、主人公のキャラ設定によると思います。
老いた彼は、とても理知的で、誇り高いひと。
若き日の彼は、お坊っちゃま育ちで、うぶなほど誠実で潔白。
大恐慌時代の鉄道サーカスという猥雑で魅力的でおそろしげな世界に飛び込んでも、彼の「青臭いまでの正義感」は小揺るぎもしません。周囲にも、そんな彼をそれぞれの立場からあたたかく見守ったりかばったりしてあげたりするキャラばかりで、ホッとします。かといって、マンガ的に、なんでも彼に都合よくすすむわけでもない、そのバランスが絶妙です。
バランスといえば、(テーマや、文章は)かなり純文学的なものなのですが、それがゆきすぎるわけでもなく、エンターテインメントあるいはミステリーとしても読めるし、かなり上品で抑制がきいている……というあたりも、バランスとれてるなぁ、と感じました。
なにしろ「殺人」場面からはじまっている話で、ネタバレになってしまうと未読のかたがたに申し訳ないので、ほんとうに素敵なところについてなにも言えないのが残念。でも、(こんな書き方ですみませんが)ほんとうに素敵です。特に、動物好きなかた、サーカス好きなかた、古きよき時代のお話が好きなかたに、オススメです。