「
サクリファイス (新潮文庫)」「
エデン」に続く自転車ロードレースの物語。前2作は長編でしたが、本書は6話の短編を集めたもの。
初出は、(a)「老ネプトンの腹の中」、(b)「スピードの果て」がyom yom、(c)「プロトンの中の孤独」、(d)「レミング」、(e)「ゴールよりももっと遠く」がStory Seller、(f)「トウラーダ」が小説新潮です(なお、単行本化に際し、加筆訂正がされているとのこと)。
(a)(f)は、白石の視点、(b)は伊庭の視点で現時点の物語が描かれています。
そして、(c)(d)(e)は赤城の視点で過去の時点の石尾の姿が描かれています。サクリファイスでは明かされていない石尾の、まだ若かった頃の姿から、エースとして成長していく姿が描かれ、サクリファイスのファンにとっては、けっこう楽しめると思います。白石をヨーロッパに送り出した石尾のサクリファイス(犠牲)の心の背景が理解できます。
それにしても、著者の筆力にはいつも「上手だなあ」を感心し、引きこまれて読んでしまいます。私は、この自転車ロードレースの物語に魅了され続けています。
ただ、本書は、3話は過去の石尾に関する話であり、あと3話もストーリー的には大きな進展がありません。なので、「物語の筋立てを追いたい」という人にとっては、「何も物語が進まなかった」と不満を持つ人もいるかもしれません。
また、白石、伊庭、石尾という、サクリファイスで印象的に登場する人物のサイド・ストーリーなので、前2作を読んでいない人にとってはあまりおもしろくないと思います。
私のように、サクリファイスに心酔した人は、ぜひ本書もお読みください。きっと味わい深く、上手に構成された短編を楽しめるはず。