ローマに数日間滞在して観光する方に是非お勧めしたい本が二冊ある。それが本書と河島英昭氏の『ローマ散策』だ。どちらも小さなモノクロ写真しか掲載されていないが、それは観光する人自身がローマという無限大の都市の姿を実際に自分の眼で様々な角度から観察する事を勧めているので、至極当然の結果だろう。
ローマの街並みは通り過ぎるだけでも強い印象を残すが、ひとたびその魅力にとり憑かれた人なら、この都市を形成した長大な歴史的、あるいは文化的な背景に更なる興味をそそられるに違いない。こうした人にこの本はうってつけだ。他の観光案内のガイド・ブックと異なる点は、石鍋真澄氏がローマに対する限りない愛情と、大袈裟に言えば哲学的な立場から勧誘する示唆的な案内書で、それはゲーテの『イタリア紀行』、アンデルセンの『即興詩人』、あるいはスタンダールの『ローマ散歩』と同じ視点に立つ啓蒙書に他ならない。
著者はこの街の無限ともいえるモニュメント、神殿、教会等から代表的なものを選択してかなり詳しく、しかも分かり易く説明している。その文章からは彼の思想が感じられるし、初めてローマを訪れる人、あるいはより深くローマを理解したい人の為に格好のガイド・ブックになるだろう。全体はゲーテとスタンダールのローマ、古代ローマ、キリスト教ローマ、バロックのローマの四章に分けられ、それぞれの章に七項目づつの見どころが詳述されている。現在では日本人観光客でにぎわうコンドッティ通りにあるカフェ・グレコの生き生きとした、歴史的な描写も興味深い。