この映画は凄い。まずはこれしか言えないが、本当だ。だが、ここで尻込んではいけない。
F・W・ムルナウという何やら聞きなれない、名前からしていかにも偉そうな人が撮った、サイレント映画の金字塔的作品。こんな形容が間違っているわけではもちろんないが、これではどうもあまりに真っ当すぎる名作のようで、見る前からお腹一杯になってしまいそう。
だが、この映画から受ける印象は寧ろクエンティン・タランティーノのキル・ビルに近いのだ。映画史の初期に作られたというのに、既に映画の紋切り・定型・雛形のあらゆる形がノスタルジックに放り込まれていて、はっきり言ってストーリーなど二の次、真面目に話を追っていけば脳みそ爆発のとんでも映画なのだ。
マーケティングを意識してラブコメ・サスペンス・どたばた・スペクタクルが適度にちりばめられたハリウッド映画は数多くあるが、このハリウッド映画は気迫が違う。ヒッチコックばりの抽象心理描写で妻殺しのサスペンスを盛り上げたかと思えば、何故か今度はその妻と胸が痛くなるほどの純愛モードに突入する。そしてホークス並みの人物配置でスクリューボール・コメディをやったかと思えば、何の前触れもなく「キートンの蒸気船」に匹敵する大嵐がやってくる。語っているだけでアホらしいが、それぞれのシーン、それぞれの演出がとてつもなく美しく、笑いに逃げようなどというみみっちい姿勢は一切ない。
サンライズは重厚な大傑作である以前に、こんな愛すべき作品なのだと思う。