評価も高く映画化もされた『朗読者』が、ちょっと期待はずれだったせいで、
この本にはまったく期待せずに読み始めたのだが、
なんというか、衝撃的な作品だった。
過去のユダヤ人の少女サラの物語よりも、現代の人々の部分がすごい。
本当に平凡で、辛いことから逃げようとする、心弱い人々の話なのに、
非常にインパクトがある。
それにナチス支配下とはいえ、フランスで、
フランスの警察によるユダヤ人狩りが行われたという事実をはじめて知った。
レジスタンス運動が有名だが、こういう負の歴史もあるのか、と驚いた。
作品の中でも「フランスでも知る人は少ない」とある。
ホロコーストの物語はかなり読んでいるが、ある意味、
こんな残酷なことが行われた、という、あくまでも過去の物語で、
悪くすると単なる知識になってしまうところがある。
ペライの「過去への扉を開けろ」のように、過去の大人たちの所業を子供たちが暴く、
というスタイルも、戦争を知らない世代が振りかざす正義に、ちょっとひいてしまう。
でも、この作品の主眼はサラの苛酷な運命にあるのではなく、
その悲劇を知りながら記憶に蓋をしてきたり、そんな話を蒸し返すなと怒ったり、
そんなことは知りたくないと逃げようとするような、ごく普通の市井の人々。
彼らが、過去のことを調べるジャーナリストに
「忘れたりなんかできない」「わたしはちゃんと覚えている」と
語る、苦痛に満ちた、でも静かな描写が印象的。
過去と現代がきちんとつながっている、素晴らしい小説。