台湾歩兵第一聯隊砲通信部隊上等兵として終戦を迎え、義勇軍ゲリラとしてインドネシア独立戦争に参加、独立後はバリに定住し、2004年6月5日に永眠したイ・ニョマン・ブレレン・タイラ(平良定三)の波瀾に充ちた生涯を描いた伝記。
平良定三は1920(大正9)年11月4日、沖縄県宮古島支庁平良村(現在の沖縄県宮古島市平良)出身で、土地の伝説的豪族の家系の生まれ。応召後は南方戦線を転戦し、ティモールで敗戦を迎える。前線で武装解除し原隊への合流を目指してバリに上陸した平良らの一行は、そこでインドネシア独立の機運の高まりに直面することになる。
以降、一度は集結した原隊から離脱し、反植民地独立戦争に参加した平良ほか日本人義勇兵たちと独立軍ゲリラの戦記が、本書の中核を成す。
そして、独立戦争終結後の混迷や続く政情不安に翻弄されながらも各地に散った旧日本兵の慰霊を続け、現地社会に溶込んで生きた晩年までの生涯が語られる。
生前、平良がよく語っていたという「大洋を渡る椰子の実」のエピソードが、本書中に幾度か登場する。遠く漂着した土地に芽吹き、根を張った椰子の実のイメージは、運命に翻弄されながらも「一度も降伏したことのない」彼の人生を象徴するものであるだろう。
その彼が生前、義勇兵としてインドネシア独立戦争に参加したことを「日本人の罪滅ぼし」だと語り、また、姪へと宛てた手紙に「居残ったのは、ただ犠牲になった戦友の事を思えばこそ」と書き綴りながら、ときに望郷の念に揺れつつも最後まで現地社会に密着して生きたことの意味は、一人、彼の意志や信条のみならず、「戦後」を生きた一人一人が考えなければならない問いでもある。
一人の未帰還兵の人間ドラマとしても、またバリ現代史の記録としても非常に興味深い内容で、複数回にわたる本人からの聞き書きを含め足掛け10年に及ぶ丹念な取材の成果が遺憾なく発揮されたノンフィクションと言えよう。