なんとフロートを付けた水上仕様のDCー3(英軍でダコタ、米軍でCー47、日本軍で零式輸送機と呼ばれ各国で戦後まで長期に渡って使われた名機)のカバーイラストが目を引きます。
これだけで航空ファンには読んでみたいと思わせるに十分ですが。
しかし細部に決定的な誤りと多数の疑問があり、これでは冒頭の大戦末期の特攻隊員の心象なども眉につばをつけたくなってしまいます。
最後に出てくるゼロ戦55型なる機種は、型番から52型の機体に3段階進歩したエンジンが積まれていることを表しますが、52型のままの機体にどんな強力なエンジンを積んでも時速750kmなんてありえません。
せめて烈風か震電ならまだ実感もわきますが。
F6Fをグラマングラマンというのはいいのかな?TBFアベンジャーやF4Fもグラマンなんですけど。
主人公トリオの一人、整備士が自分の乗艦をいちいち空母瑞鶴といいますが、当時の海軍士官にとって瑞鶴と言ったら空母に決まっているので。こうした会話の違和感が全般に頻発し、感情移入できません。
それでも、魅力は多々あります。
主人公のゼロ戦乗りはアメリカ生まれで、射撃を命中させることができないが味方機を救うことにかけては人後に落ちない名パイロット。彼が機体の故障で不時着した島に先に漂着していた瑞鶴乗組だった整備士、そこへ満身創痍でやってきたDCー3水上機(これも実際には無い型ですが、カスタム仕様としてありうるファンタスティックなイメージです)のただ一人の生き残りの女。
なぜかこの機の積荷をなにがなんでもジャワ島に届けることに固執する女に協力して、名パイロットと整備士が知恵と技術を振り絞ります。
その困難は、ボロボロの水上輸送機をどう修理するかに始まって、ほとんど無い燃料の調達、スコールや雷雲といった悪天候、そして行く手に立ちふさがるF6F戦闘機といった具合。
カバーイラストにあるカタリナ飛行艇はちょっとすれ違う程度で空中戦とかはありません。
航空場面は面白いですが読後にプラモデルを作りたくなったギャビン・ライアルのちがった空や本番台本ほどの興奮はありません。
むしろ一番の魅力は、独立前夜のインドネシアの様子、そこでの親日的な雰囲気で、反日中国や朝鮮だけがアジアではないことを思い出させてくれます。スカルノ氏がかっこよくデヴィ夫人に読ませたい。
ラストの主人公が挑む、ゼロ戦55型(?)によるF6F3機に対する模擬空戦は、本来なら相当のカタルシスのはずですがその性能があまりに荒唐無稽なために白けてしまいます。
飛行機は好きだけど、あんまりこまかいことにこだわらない方ならおすすめできます。
また、カバーの他本文にもイラストが挿入され、DCー3水上機の他ゼロ戦、赤トンボ練習機、F6F戦闘機などが緻密に描かれているのも魅力です。