サキ(Saki)という作家の名前だけは以前から知っていたが、最近になって読んだところすっかり魅了されてしまった。何でもっと早く読まなかったのかと悔やまれた次第である。
彼の135篇に及ぶ短篇小説(…というより掌篇・コントだが)から21篇を収録した本作。その多彩なラインナップの先鋒は、代表作「二十日鼠」だ。汽車の中で男性が1匹の二十日鼠にきりきり舞いする姿をユーモラスに描き、大どんでん返しの痛快なエンディングで締めくくる。これぞ短篇の傑作! この1作だけで彼のファンになってしまう人もいるだろう。
また、「開いた窓」にも破顔一笑。少女が語るホラーチックなストーリー、さてその結末は?……。その他、「おせっかい」「ある殺人犯の告白」「七つのクリーム壷」など、一読したら忘れられそうにない残酷と恐怖、冷笑とウイット、エスプリが渾然一体となった〈サキ・ワールド〉が格調高い硬質な筆致で展開される。
本作に気をよくして、他作を渉猟したところ、発端から意外な結末まで緻密に構成された作品ばかりで、またまた“名刀の冴え”に引きつけられてしまった。そして、見えてきたのは何とも皮肉で辛辣な作家の姿である。高い地位に満足して納まりかえっている連中を目のかたきにして刀を振り下ろし、また大人と子供が対立する場合はいつも子供の肩を持つ……。常にシニカルな視線で世の中を見つめながら、奇抜な発想と独自の手法で上流社会や一般家庭を風刺、揶揄するのをはじめ、超自然的、怪奇的なものをモチーフにするなど、実に守備範囲が広い。
ジャーナリスト出身で、小説家として活躍したのは10年に満たない。第1次世界大戦に一兵卒として志願して戦死。46歳だった。死後再評価され、『この男ならわかると思う友人に、何も言わずサキの本を渡す。これがその友人に対する最高の敬意の示し方だ』『サキが模倣した作家はいない。また、サキを模倣して成功した作家はいない』……など多くの賛辞が寄せられているが、それもむべなるかな。全作読んでみたいワン&オンリーの短篇作家である。