2008年1月に惜しくも78歳で逝去されたアメリカ本格短編ミステリーの巨匠ホックの日本では初となるオカルト探偵サイモン・アーク物の傑作短編選集第1弾です。まず、この怪奇小説とミステリーの融合というジャンルは、過去に発表されてきた他の作品を読んだ経験上非常に難しさがあるなと感じておりまして、いわば水と油のようにどうしても互いに反発し合って相交わらない物だと考えています。非科学的な怪奇色を強めるとミステリーの部分が弱くなりますし、その逆もやはり特異性が薄れて不満を感じさせてしまうという真に作家泣かせのテーマなのではないかと思います。本書収録の本邦初訳2編を含む10編は延べ54年間も続いたシリーズ中の秀作が年代順に並べて掲載されていますので作風の変化や傾向を掴むのに適していると思います。私の感想としてはデビュー作の「死者の村」は非常に怪奇性の強い作品でしたが、反面推理のトリックとしては素直で呆気なく著者の奇抜さという優れた部分が殺されているように感じられ初めに読んだ当時も残念に思いました。結論を先に申しますと、本書を読み進める内に著者が怪奇小説の色合いを徐々に薄めて行き後年は得意の本格ミステリーの領域に完全に移行した事に気づきました。本質的にはミステリー作家であった著者が、怪奇小説が向かう道である謎を残したままにする事に躊躇した気持ちが私には完全に理解出来ます。この流れは自称2000歳の怪奇を愛するオカルト探偵アークにとっては残念至極で不幸な事ですが、私は逆にすっきりして良かったと思います。これは冒頭の問題に対する本来の答にはなっていませんが、私は著者の資質が活かされるのが最も大切な事だと考えて正解としたいです。私のベスト3は『妖精コリヤダ』『奇蹟の教祖』『霧の中の埋葬』です。著者の職人芸が冴えるシリーズの残された珠玉の51編も今後可能な限り紹介して頂きたいと思います。