永遠に悪魔を追い続ける自称二千歳のオカルト探偵サイモン・アークの怪奇な犯罪事件簿8編を収録する傑作集第3弾です。水と油の様な怪奇小説とミステリー小説の融合を嘗て巨匠J・D・カーは主に長編小説で追求しましたが、名手ホックはその困難な命題を中短編でコンパクトに凝縮して61編も生涯に渡って執筆されたのですから誠にたいした物だと敬服致します。また最近のミステリー作家はリアリティー重視の作風が主流で推理が淡白で物足りなく感じる事が多いですので、謎解きパズラーに生涯こだわり続けた著者は本格ミステリー愛好家の私にとっては神さまの様な存在に思えます。今回全体的に思ったのは、犯人が事件を超常現象の仕業に見せかけようとする理由は目くらまし効果を狙っての事なのでしょうが、悪く言えばそんなあやふやな物に頼ってしまう見通しの甘さが身を滅ぼすのに違いありません。けれど反面このサービス精神旺盛な遊び心を感じる凝り性振りは(少し不謹慎ではありますが)愛すべき資質ではないかと思います。それからもうひとつ気づいたのはオカルト探偵サイモン・アークが世界各地に出向いた時点では概ね犯罪が進行中であるという事実で、その意味では彼が悪や犯罪の気配に引き寄せられる能力を持っているのは間違いなさそうですが、でも悲しい哉犯罪の未然防止は無理なのだなと意地悪く考えていましたら、本書で一編だけ二度目の犯行を防ぐ作品がありまして少し見直した次第です。
『焼け死んだ魔女』大学への恨みから女学生達に呪いを掛けて謎の奇病を発症させたとされる現代の魔女が焼け死んだ。非常に現代的な最先端の犯罪と古めかしい魔女との対比の妙が面白いです。『罪人に突き刺さった剣』狂信的信仰組織「痛悔修道会」の儀式中に多数信者の内で一人だけ刺殺された男の事件。実際の犯行再現理論がとても説得力があり、人間ドラマも素晴らしいです。『過去から飛んできたナイフ』二百年以上前に忽然と消え失せたナイフが現代に現われ過去の消失時と同じ部屋で犠牲者が出る。不可能犯罪トリックは平凡ですが、二段構えのどんでん返しが鮮やかです。『海の美人妖術師』海で美人妖術師に出会ったと日誌に書き残した男が女性の髪で絞め殺された姿で見つかる。推理自体よりも神秘的な女性の記憶が鮮やかに心に残ります。『ツェルファル城から消えた囚人』ナチス・ドイツの戦犯が古城の刑務所から不可能状況で消失する。隠された事情の複合技のトリックがお見事でスパイ小説的な味わいに新鮮な魅力があります。『黄泉の国への早道』ロック・スターの男が透明なエレベーターに乗り込み外から目撃されながら上昇途中で消失し、その後無残な焼死体の姿で見つかる。本書中一番トリッキーで本格通をも大満足させる文句なしにベストな傑作だと思います。『ヴァレンタインの娘たち』ヴァレンタインの町の若い独身の娘たちが行う風習の途中で男が刺殺される。最も怪奇性は薄いですが、犯人の手掛かりの出し方が通好みの秀逸さです。『魂の取り立て人』大学時代に5人の男仲間が酒を飲んだ勢いで悪魔に魂を売り渡す儀式を行うが、皆が中年を迎えた頃に一人二人と不気味な死を遂げる。斧を手に夜中に忍び寄る魂の取り立て人の不気味な足音の正体のトリックにいたく感心させられた怪奇性の色濃い気合の入った力作です。
これでオカルト探偵の事件簿は26/61が作品集として読める事となりましたが、嬉しい事にあとがきで翻訳者・木村二郎氏セレクトによる傑作選第4弾の刊行が予告されていますので楽しみに待ちたいと思います。また生涯800編以上の短編を残された著者のまだまだ一杯ある未訳作品が今後もコンスタントに翻訳されて私達を喜ばせてくれる事を期待したいと思います。