2008年に78歳で亡くなられてからも過去の傑作を集めた著作が次々に刊行され続けるアメリカ短編ミステリーの達人ホックのオカルト探偵サイモン・アーク物の著者自薦傑作集第2弾です。怪奇小説の世界に生きる2000歳の名探偵サイモン・アークは当然の如く本格推理小説とは完全に矛盾する存在なのですが、多少の強引さはあるにせよあらゆる不可解な怪奇や超常現象に世俗的な現代の犯罪事件を絡ませ合理的な解決を示してみせる怪奇本格ミステリーと呼ぶべきジャンルを確立された著者の努力と功績は大いに讃えられて良いと思います。本格推理の宿命で最初は全く見当のつかない魅力的な謎に対して種明かしの答が呆気なく単純過ぎてその落差にガッカリさせられる作品もありますが、それでも一作毎に奇妙な犯罪の動機面に工夫を凝らして最後には力技で納得させてしまう豊富なヴァリエーションの物語を構築する才能と努力には感服致しました。
『過去のない男』過去を持たない謎の男の不可能状況での刺殺事件を描く。密室物としては古典的なトリックで、ミステリー初心者向けの水準作でしょう。『真鍮の街』まず本編の題名からE・クイーンの長編「真鍮の家」を思い出しましたが、本作の方が9年前に書かれた物でした。アメリカの架空の街ベイン・シティーを舞台に遺伝学の大学教授の怪しげな実験が引き金になって起きた殺人事件の謎と街の有力者ベイン家にまつわる奇跡的現象や誘拐事件が複雑に絡み合う物語を描いた本編は著者の読者を欺く周到な企みと仕掛けが素晴らしい会心作で文句なしに本書のベストだと思います。読者の中には細心の注意を払ってこのトリックを見破る鋭い方もおられるかと思いますが、私は愚かと言われようと完璧に騙される快感を味わう方を選びたいです。『宇宙からの復讐者』ロシアとアメリカで連続して起きた宇宙飛行士の感電死事件の謎。『マラバールの禿鷹』インドの遺体を野ざらしにして禿鷹に食わせるという奇妙な風習に絡む醜悪な犯罪を暴き、さり気ない手掛かりの出し方に感心させられます。『百羽の鳥を飼う家』ロンドンの百羽の鳥を飼う家で起きた殺人に隠された真の動機を追う物語。推理以外にも語り手の「わたし」の妻シェリーに似た女の挿話が心に残ります。『吸血鬼に向かない血』アフリカのマダガスカル島で起きた血が一滴も流れない吸血鬼の謎とは?冒頭の一見関係がなさそうな闘猪の挿話がしっかりと物語に絡む巧みさと意外な犯人の趣向に加え読後に何とも言えない不気味な余韻が残る忘れ難い力作です。『墓場荒らしの悪鬼』全く何も盗まれていない墓場荒らしが繰り返される目的とは?意表を突くまさかの展開はベテラン作家ならではの匠の技と言えましょう。『死を招く喇叭』過去にエジプトで発掘した喇叭を吹いた瞬間に突然老衰死した考古学者の悲劇が時を経た現在に再び繰り返される。最後に種が明かされてみると実は単純なのですが、この謎は容易に解けそうに思えず私としては相当に強いインパクトを感じました。
このシリーズは全部で61編が発表されておりまして、巻末のリストによると本傑作集2冊収録の18編を含む26編が既訳で読む事が可能です。残念ながら全作の紹介はかなり難しそうな感じですが、今後出版が予告されている著者が生前に自薦された第3弾の紹介を心待ちにしたいと思います。