ビッグバン理論では、宇宙は137億年前に突然「はじまり」、急激なインフレーション膨張を経て、現在の形になったということだ。教科書にものっているし、現代人のほぼ共通認識になっている。
しかし、この興味深い新理論では、宇宙は、もっと永遠の過去から存在し、ビッグバンとビッグクランチを繰り返している。
古代インド神話にあるような、創造と破壊と再創造を繰り返すような宇宙論だ。しかし、他の「想像」と違う点は、この理論は、既存の観測結果と何ら矛盾しない。(少なくともビッグバン仮説と同じレベルで、観測結果と一致する)
M理論とひも理論によって、宇宙のサイクルは記述でき、ビッグバン仮説のような特異点(密度や温度が無限大になって、物理法則が通用しない場面)も必要ない。
サイクリック宇宙論での、ビッグバンとは、2枚のブレーン(M理論で出てくる「膜」のような宇宙)同士の衝突によっておきる急激な反応だ。
知られているビッグバン仮説では、ビッグバンの直後にインフレーションという時期がある(ことになっている)1秒にも満たない短い時間に宇宙空間は急激に膨張する。一方、サイクリック宇宙論では、現在の宇宙の特徴をつくるのは、ビッグバン以前の宇宙の長い時間(1兆年ほど)をかけたゆっくりとした収縮だ。
はたして、宇宙をつくったのは、「急激な膨張」か「ゆっくりとした収縮」か。宇宙は、このどちらで作られたのか、今のところ、どちらの仮説も同じ位にありえそうだという。
興味深い仮説じゃなかろうか。
最新の、宇宙背景放射のより精密な観測結果も、サイクリック宇宙論を裏付けるような痕跡がみとめられるそうだ。
しかし、インフレーション仮説を採用した場合、宇宙には無限個の孫宇宙が存在してしまう。そのほとんどは、さまざまな定数が私たちの宇宙とは異なり、銀河や恒星や生命が存在できない。生命が存在する宇宙があるのはたまたまにすぎない。いわば人間原理を採用するしかなくなる。それは、科学者が科学に対して最終的にさじをなげるようなものだ。
一方、サイクリック宇宙論なら、現在と同じ物理法則が、過去の宇宙でも、未来の宇宙でも同じように通用し、どこの宇宙にも銀河や恒星や生命が存在しえるという。
インフレーション仮説と、サイクリック仮説のたたかいは、科学史の中ではじまったばかりだが、ただ2つの仮説のどちらが正しいかという話にとどまらず、科学が今後どのようなあり方でいられるかをも決定することになりそうだ。