2011年3月。東北大震災の翌日、沈黙するしかないようなメディアの状況中、
ラジオから流れてきたサックスの音、響き、メロディ。
切なくて、叙情的で、情熱的で、ヒューマンで。
仕事中だったが、聴き入ってしまった。
それがこのアルバムをしめくくる曲、「I'm with you」。
この曲もすばらしいが、それ以上にせつなく、しっとりと、うたいあげているのが「Nightly yours」。
このアルバム、すべての曲が「せーの」の一発録り。バンドのグルーブ感と緊張感と高まりが
そのまんまパックされたような求心力のあるアルバム。
そのせいか、ナベさんのサックスの音色もいつもと違って(いつも以上に)
精神集中している演奏になっている。
間をほとんどあけずに、自然と流れるように曲が演奏されていくのも、
バンドの一体感と、つくりあげた音楽の良質を表現している。
「バンドの一体感」はありきたりのものではなくて、
「First Flight」という曲は、夜のジャングルを行くような神秘的な響きで、
そこをナベさんのSサックスが揺れ動く。
ラストの数小節だけがサックス・ソロになって次につながっていくところもあって、
かなり緻密な曲作り、アルバム構成です。
息を詰めたような(といっても決して息苦しいようなものじゃないのだけれど)流れは、
ナベサダさんがライトのために作曲した「Nard's Time」のストレートで楽しいジャズで、
喜びに包まれ開かれていく。
この音楽の基になったのが、15年以上もの付き合いのキーボード奏者、バーナード・ライトとの再会。
ライトが集めた若手のミュージシャンがつくるサウンドの中で、安心して、素直に、
自らの音楽に没入するナベサダさんが味わえる。
いちばんふさわしい「時」に、ふさわしいメンバーで、アルバムを作る。
これがナベサダさんにとってのジャズの実践なのかも知れない。
そんなことを思わせてくれる1枚。
P.S. このアルバム、ジャケットで損していますかね。こういうざっくりとしたラフな感じの内容ではないのです。
自分の中では、とても濃密で、スピリチュアルな作品だと思っています。