「嫌われ松子の一生」本編の最後の方で、笙というキャラクターが好きになったので手に取った本でしたが、笙の状況と自分のモラトリアムの時期とを重ねてしまったところがあって、読んだ後少ししみじみとしてしまいました。
「何も始まっていないのに、何もかも終わってしまったような気がする」
そう感じて自分をもてあましていた笙が、自分の不安や疑問に真っ直ぐに答えてくれる、そんな人達と出会えたのは本当にとても幸運な事です。何かを信じるという事や、自分にとっての光みたいなもの、幻でもいいからそれを持ち続けることができれば、絶望とうまく折り合いをつけられるのかもしれない。そうすれば生きていくのが少しは楽になる。それはモラトリアムの時期だけではなくて、生きていく上でどんな状況においても有効なものだったんだなと、考えればすぐ分かるような馬鹿な事を久々に思い出させられました。
この本の中で一番好きな場面をあげるとすれば、笙が明日香の前で「ういろう売り」を演じる場面でしょうか。書店でこの本を拾い読みした時に、この場面に遭遇していなければ当初の予定どおり文庫になるまで気長に待っていたと思います。一瞬「北島マヤ」みたいな笙が見られます。
この場面だけでなく、笙側の演劇の話は周囲の人達も魅力的で印象的に残る人達が多いということもあって、読んでいて面白かったです。医学生・明日香側の話も興味深いものがあったんですが、私は演劇の話の方が個人的には好きです。
笙はとても素直だし、沢村社長も素敵だし、「松子」本編の時以上に彼らが好きになりました。今、読んでおいて良かったです。