発刊されて1年以上経つが、『天皇論』を読んで初めて著者を知りレビューを見ている人もいるだろう。自分もそのクチだが買ってよかったと心から思った。本書は純粋な描き下ろしではなく、また『正論』に掲載された論文などともあわせて構成されておりやや変則的ではあるが、それ程読みづらくはなかった。本書をただ単にパール氏本人とその判決(意見書)に対する評価や東京裁判の肯定・否定の確認といった観点だけで読むと、ウヨクvsサヨクのような不毛な論争が永久に続いてしまうし、著者に対し大変失礼になるだろう。何故なら特定の人(本書の場合、中島岳志氏)の著書に対する批判・反論を公にする事は、その著書は勿論の事ただでさえ膨大で難解なパール判決書やその他の関連図書を何度も読み返すなど、その人以上に労力を使うと推察されるからだ。しかも場合によっては名誉毀損で訴えられるリスクも抱え込む。それ故に著者の真剣さや緻密さ、周到さがひしひしと伝わってくる。読者の方もそれに応えて先入観や思想信条を排し事象の本質や文書の真に伝えたい事を探るといった姿勢は、マナーとして要求されてしかるべきであろう。また戦後に広まった歴史観はそういった姿勢の欠如から出発していると思うので、そこから始めないと本当の意味での“パール真論”にたどり着けないはずであろう。おかげで『天皇論』もさらに真剣に読もうと思えたし、日常生活におけるものの捉え方にも通じると思う。それにしても本書においても批判対象者の描写は辛辣である。強いイメージで読者に迫るのは漫画の宿命とはいえ、「先入観や思想信条を排す」姿勢を早速本書で試されるのは皮肉であるかも知れない。