この映画は昨年の夏ごろ,日本では限定的に公開されたもので,どれぐらいの人が見たかは定かではないが,見たいと思っていたのに見逃していたものだが,これがなかなかの佳品である。ベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)やセザール賞の監督賞を受賞したのもうなずける。
何がいいか。Polanskiの描くサスペンスというと,私は「フランティック」のように,わけのわからないまま巻き込まれていくというパターンを思い出すのだが,本作もまさにそうした感じである。映像もストーリーも静かなものだが,その静かな展開の中で,サスペンスを盛り上げるという感じなのである。ちょっと見た目が怪しいって感じの登場人物が多いのはご愛嬌だが,誰を信じて,誰が信じられないのかというのはHitchcock以来のサスペンスの王道という気もする。
ストーリーとしてはいかにもTony Blairをモデルにしたかのような元首相をPierce Brosnanが演じているが,彼にまつわる様々な陰謀が背後に描かれていて,最後にその謎が解かれるという展開である。ややラストに向けての展開は話を急ぎ過ぎた感覚はあるものの,エンディングも静かな恐怖を感じさせるものである。
この映画を見ていて,Polanskiはアメリカ嫌いなんだろうと思ったのだが,その背景には奥さんだったSharon Tateを惨殺されたり,少女淫行疑惑で有罪を食らったりという点もあろうが,シナリオにもアメリカ嫌いが如実に表れている。まぁ「戦場のピアニスト」でオスカーをもらっても,アメリカに入国すれば逮捕,収監らしいから,授賞式にも出席できなかったという無念さもあるだろう。まぁ,Polanskiは人間的にはいかがなものかというところはあるかもしれないが,映画監督としては大した人であることを実証しているから,私はそちらで評価すべきだと思っている。
いずれにしても,地味な映画ゆえに日本ではヒットしたかどうかはわからないとしても,ギミックに頼らない映画として私は評価したい。世の中,こういう映画がもっと増えて欲しいものである。但し,これが先般発表されたようにキネ旬1位に本当に相当するのかどうなのかというと若干微妙ではあるが,この映画らしさが評価されたものだろうと感じてしまう私である。だが,そうした評価を受けても不思議はないと感じさせるだけの作品であった。