映画館の予告編で映画に興味を持ったのがきっかけで、映画を見る前に、この本を読みました。
恥ずかしながら、著者のことは全く知りませんでした。(英語ペーパーバック版のレビューによればベストセラーも
何冊か書いている作家のようです)
そういうわけで、作風等について何の先入観も持たず、読むことになりましたが、期待以上に面白いストーリーでした。
芸能・スポーツ人専門の覆面作家が、とあるきっかけから、英国前首相の回顧録を引き受けることから物語は始まります。
しかし、前首相は、米国と組んでテロリストに対する拷問を幇助した容疑で、国際刑事裁判所から告訴寸前であり、回顧録
の前任覆面作家は、謎の自殺を遂げている、という波乱含みの状況です。
主人公の作家は、きな臭さを感じつつも報酬に目が眩んで仕事を引き受けますが、様々な不安が疑問に、疑問が推測に、推測が確信に
変わっていくスリリングな展開に、読んでいてグイグイ引き込まれました。何度もどんでん返しがあって、最後の一頁を読み終わるまで
油断が出来ません。著者のストーリー・テーリング技術の高さを感じました。
とくに驚かされたのは、“英国首相が米国情報機関に操られている”という仮定を構想の核としていることです。
各国とも各国の首脳に対し様々な工作を行っていることは理解できるし、たとえば日本の場合なら、戦後の体制が米国情報機関の工作下に
あったことは有名ですし、米国公文書図書館で公開された情報でそのことは明白になったりしています。戦後ばかりか現在でも、あの政治家、
あの首相、あの閣僚、あの学者などは、そうではないかと顔を浮かべることが出来ます。
日本ならともかく、まさか、MI5,MI6を誇るある英国で、そんな馬鹿な事が起こるのだろうか? という設定に驚き、かつ、どう考えても前首相のモデルは、ブレア前首相と容易に想像させる設定にも驚いたからです。この大胆な構想が、この作品の一番の“売り”と感じました。
ただ、難を感じた点もあります。
一人称主人公による、独白、情景描写に多くの文章を割いているのですが、やたら冗長な表現が多いというか、キレがまったく無いのです。
独白の中で様々な比喩を屈指しているのですが、まったく面白くない。この点、翻訳の問題なのかもしれませんが、読者によって好悪の分かれるところだと思います。
また、主人公が事の真相に気づく発端のエピソードが、あまりにもご都合主義っぽすぎるところが気になりました。(プロの殺し屋が、そんなミスしたりはしないだろう!)
最後に、まるで英国版の「いろは歌」ミステリーが出てきます。これはこれで楽しめたけど、あまりにも多くの仕掛けを投入した為、かえって
全体としてのまとまりを欠いてしまっている感は否めませんでした。
そのため、秀逸な構想は満点ですが、トータルでは☆1個マイナスとしました。