かつて、書店の棚に小松左京の作品がずらーっと並んでいた時代がありました。
「日本沈没」がベストセラーになってから数年の間です。
SF少年であった私は何冊も買って読みましたが、いま私の手元に残っているのは
この「ゴルディアスの結び目」だけです。とても手放すことはできませんでした。
人間の心の深みは宇宙のそれと比較しえるのか。
人間の心の傷が無限に深かったら、それは物理的世界を変えてしまうほど深刻なものではないのか。
最後の日を意味する名前の病院の中で、一人の少女が負った心の傷が人類の運命を左右する驚くべき物語は、
90年代の「セカイ系」などとは比較にならないほど純粋で深い想像力の産物です。
そういう、人間の意識が宇宙の中でどれほど普遍的なものなのかというテーマが、
連作の異なった位相のなかで考察されていきます。
それらの問いかけは私の心の中に投げ込まれたまま、今も答えは見出せません。
SFというものがこういう極北に達することがあるということを、読書家なら知っておくべきでしょう。