町田康さんの作品を愛読してきた者として、この短編集に出てくる、例えば「二倍」という作品の主人公の名前、それが小川雄大という至って普通な名前なのを読んだとき、噴き出してしまいそうになる。
これまでは、人名にしても何にしても意味不明で難読、例えば、葛城モヘア&ドールとか、ポーラ、ポポポ呪師、腹ふり党や、糺田両奴みたいなものが多く、そこが目立ち、町田康さんの作品の一特徴としてすでに標準化している感があっただけに、短編をペラペラとめくっていて、小川雄大。ハハ。小川雄大。ハハハ。ってなことになってしまうのである。
書き出しにしても、
「都心のオフィスビルの四十八階。明るくて機能的なオフィスのフロアーに足を踏み入れた瞬間、小川雄大は、毎朝その瞬間に覚える小さな愉悦をその日も楽しんだ。」
とか、自分にとっては衝撃的。
すごく普通なのである。こ、これは…!町田さんが、町田節を封印して作品を書いているのか!?と思いきや、読み通してみると、うっひゃあ、完全なる町田節。文体は普通だが、言っていることが完全な町田節!と、ここでまた笑ってしまう。
ズルい。そんなことで読者から二度も笑いを取ってしまう町田さんがズルい!
しかし、まあ、そんなわけで、これはめちゃくちゃおもろい短編集です。