本書を記した、酒井健氏は、あと書きで、こう述べている『…歴史家のアンドレ・ヴォシェは、建築様式から大聖堂を論じた研究はきわめて多いが、数世紀にわたる宗教・社会・文化の視点から大聖堂を考察した試みは皆無に近いと嘆いている。拙書がこの空隙をわずかでも埋めることができるのならば幸いである。』 (p234)と。この引用が示しているように、本書はゴシック建築の大聖堂の様式についてのみ、論じたのではなく、その誕生から、受難、そして復活までをたどりながら(副題にあるがごとく)、精神史を示してくれている。
本書はとても良心的。それは複雑な構成を排し、すっきりとまとめられ、地図や図版・参考文献も示され、なおかつ、前書きでは丁寧に、著者の問題意識が述べられている。文体も滑らかだ。
これだけの質の書物にはなかなか巡り会えない。本書の主張の軸を見出す鍵は、「時間」と「中世はキリスト教の盲目的信仰一色の時代である、という一般的テーゼへの、疑問と反論」の二点にあると、小生は感じている。先の引用が成功していると感じられる本書を、広く、柔軟に、物事を見つめなおすことの好きな方に、一読してもらいたいと感じた。
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